軽石で船が動かせられないのはどうして?

海運業界に大打撃?

2021年、小笠原諸島の海底火山から噴き出したと考えられている大量の軽石が続々と日本に漂着して、大きなニュースとなりました。
とりわけ大量の軽石が漂着した奄美諸島では、船舶の運行に大きな影響を及ぼし、海運業界に打撃をもたらしています。
つまり、軽石のせいで船を出せなくなってしまっているのです。

漁師はもちろん、船舶を利用した海運業、さらには移動のためのフェリーにも影響が及んでおり漁ができない、モノを運べない、ダイヤを改正しなければならないといった問題が出ているのです。
かなり深刻な状況なのですが、一方素人の立場からすると「どうして軽石のせいで船が出せなくなるの?」という疑問も出てきます。
わたしたちにとってもおなじみの軽石が、どうして船舶の運行にそれほど大きな影響を及ぼすのでしょうか。
そこには、現代の最先端の技術が抱えている思わぬ「落とし穴」が潜んでいます。

冷却装置に及ぼす影響

軽石のせいで船が出せなくなってしまう主な原因は、多くの船が導入している冷却装置に影響が及ぶためです。
エンジンはオーバーヒートを防ぐためにも冷却することが欠かせませんが、船舶ではこの冷却の際に海水を使用しているのです。
海水を取り込んで、冷却水として利用してエンジンを冷却するわけです。

この海水を取り込む装置にはろ過装置がついているのですが、軽く細かな軽石が海水に含まれていると、このろ過装置に詰まってしまい、うまく海水を取り込むことができなくなってしまうのです。
その結果エンジンの冷却のメカニズムがうまく機能しなくなり、オーバーヒートの危険性を高めてしまうわけです。

軽石の最大の特徴は「水に浮く」ことです。
水に沈む普通の石なら、海水を取り込んだ際にろ過装置に引っかかることはありません。
しかも軽石は軽いですから、ろ過装置に引っかかったままなかなかとれないという問題も引き起こします。

海水をすぐれたろ過装置によって冷却水として利用しつつ、エンジンのオーバーヒートを防ぐという機能は最新技術でもあり、非常の効率のよいシステムでもあります。
しかしこれが軽石の大量の漂着という不測の事態によって、思わぬ問題を抱えることになってしまったわけです。
最新技術の多くは「同じ状態が続く環境で効率よく動く」という面を重視しすぎている面もあり、災害などの不測の事態が起こると一気に機能しなくなってしまう問題は近年多発している自然災害で繰り返し露呈しているわけですが、ここでもそうした問題が起こったわけです。

そもそも軽石って何?

そもそも軽石とは、地下の岩石が高熱で溶かされた後に固まってできたもの、簡単に言えばマグマが固まったものです。
しかも固まる過程で水分が大量に含まれるため、それが気体になった後に内部にたくさんの隙間ができることで水に浮く「軽い石」になります。
そんな火山がもたらす自然のメカニズムが、今回は海運に大きなデメリットをもたらしてしまったことになるわけです。